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大阪家庭裁判所 昭和60年(家)5077号 審判

申立人 大橋菊次郎

相手方 大橋良友 外3名

5078号事件相方手 大橋勝巳 外2名

被相続人 大橋静枝

主文

一  申立人大橋菊次郎の寄与分を金730万円と定める。

二  被相続人亡大橋静枝の別紙目録記載の遺産を次のとおり分割する。

1  別紙目録(1)、(2)、(3)記載の不動産は申立人大橋菊次郎が取得する。

2  別紙目録(4)、(5)、(6)記載の預金は相手方横田富美江が取得する。

3  別紙目録(7)記載の株式は同ア、イ、ウ、サを相手方高田美佐子、同エ、オ、カ、キ、コ、シ、ス、ソを相手方大橋良友、同ク、ケ、セを相手方大橋吾郎がそれぞれ取得する。

三  申立人大橋菊次郎は上記取得の代償として相手方大橋良友に対し金1,115,000円、相手方横田富美江に対し金552,000円、相手方大橋吾郎に対し金4,000円をそれぞれ支払え。

四  被相続人亡大橋静枝の祭祀財産の承継者に申立人大橋菊次郎を定める。

理由

一  相続の開始

被相続人は昭和58年9月29日大阪市西淀川区で死亡した。その相続人は長男良友、二女美佐子、三女正子、四女富美江、二男菊次郎、五女佐知子、三男吾郎、四男勝巳であり法定相続分は各8分の1である(戸籍謄本、民法900条)。

二  相続分の譲渡

相手方正子、同佐知子、同勝巳は本件分割手続において自己の相続分を申立人菊次郎に譲渡する旨の意思表示をした。これにより相手方3名は(甲)、(乙)事件の当事者たる地位を脱退することとなる。

三  遺産の範囲

被相続人の遺産は別紙目録の(1)~(3)の不動産と(4)~(6)の定期預金、(7)の株式である。そのほかに1,455,201円の現金があるが、当事者全員は将来の祭祀費用にあてるため分割の対象にしないことに合意している(第1回調停期日審問)。

また相手方美佐子はダイハツ6,000株、関西電力1,000株、大丸12,000株、東芝5,000株を遺産であると主張しているが、甲第42~45号証、大橋勝巳名義の○○銀行預金通帳(上記株式の配当金が振込まれている)、同人の上申書によると該株式は相手方勝巳の固有財産であつて遺産に属しないことが明らかである。

四  特別受益

1  被相続人は昭和48年11月頃相手方吾郎が現住居の不動産を購入した際その資金援助として金100万円を同人に贈与した(甲第26号証、第55号証の1~6)。これについて相手方吾郎は妻である俊子が贈与されたように弁ずるが贈与の動機に鑑み到底措信しがたい。

2  被相続人は昭和55年頃相手方吾郎が交通事故による賠償金支払いに窮した際同人に金483,000円を贈与した(同人の申述)。

3  被相続人は昭和50年12月頃相手方勝巳に対し住宅購入資金として金100万円を贈与した(同人の上申書)。

4  相手方富美江は昭和52年頃相手方吾郎より100万円借り受けていたところ昭和56年10月頃被相続人が相手方吾郎に金100万円を立替え弁済したので相手方富美江は同額の利益を得た(同人の返信、相手方吾郎の申述と上申書)。

5  申立人は相手方吾郎について被相続人から昭和52年暮頃飲食店を開業した際100万円、昭和55年10月頃交通事故による損害賠償金支払のため300万円の生前贈与があるとして甲第27~第29号証を提出しているが、いずれも被相続人からの伝聞を内容とするものであり、資金の出処等裏付け資料に乏しく、たやすくこれを認めることができない。

6  総務庁統計局発表の消費者物価指数を用いて前記贈与金を相続開始時点に換算すると相手方吾郎の1の受贈金は200万円、2の受贈金は533,000円、相手方勝巳の3の受贈金は147万円、相手方富美江の4の受贈金は1,036,000円である(家庭裁判所調査官の調査報告)。

五  寄与分

申立人の申立書、甲第1、2、8~13、25、39、40、41-1、2、54号証、柳川輝夫、大橋菊次郎、大橋良友、大橋勝巳各審問の結果によると次の事実が認められる。

申立人菊次郎は中学卒業後父大橋次雄の営む○○○○○仲買業に従事していたものであるが、昭和30年2月父が脳溢血で倒れたゝめ以後番頭格の矢田久の指導を受けながら父にかわつて家業を支えた。

父次雄は再起することなく永患いの末昭和41年4月23日死亡した。その遺産相続に当り、居宅に同居し家業に従事していた申立人、相手方吾郎と被相続人の生活保障を考え、居宅とその敷地(別紙目録(1)~(3)記載の不動産)を上記3名の共有、仲買業出資金を申立人菊次郎、相手方吾郎で分割し、株式(総額およそ1、300万円)を被相続人が取得し、500万円相当の株券、現金等を相手方吾郎を含む6人の兄弟で分配することとした。

そして申立人は改めて大阪市長から大阪市中央卸売市場の仲買人許可を受けて名実ともに営業主となつた。

相手方吾郎は昭和45年結婚して別居したが、申立人は昭和42年結婚後も被相続人と(3)の建物に同居し、その死亡に至るまで被相続人を扶養し、被相続人自身の交際費として毎月多額の小遣いを与え、また(1)~(3)不動産にかかる火災保険、補修改造、公租公課を全額負担してきたので、晩年被相続人は恵まれた境遇に感謝しながら、申立人を後跡りとして自分の遺産を当然相続するのだから辛抱するように諭していた。その間被相続人が前記四の如く金銭的援助を施すことがあつても他の兄弟からまともに仕送りしてきたものはなかつた。

その結果相続開始時の遺産として(1)~(3)の不動産のほかに合計1,247万円の株式、預金、現金が遺つた。これは被相続人が昭和41年亡大橋次雄から相続したときの株式財産に近似する価額であり、その間相手方吾郎らに前記の如く贈与し費消しており、被相続人の株式利殖や株価高騰等の変動があることを考慮しても、被相続人は前記相続の財産を自己の生活のためには殆ど使用していないものと認めざるをえない。

申立人菊次郎が被相続人を扶養した18年間にわたる金銭的負担は少く見積つても825万円となり(その他に与えた小遣銭については金額を把握する的確な裏付け資料がない)、本来兄弟8人が能力に応じて負担すべきところを菊次郎が全面的に引受け、これがため被相続人は自己の財産を消費しないで遺産となつたのであるから本来的義務を超えて負担したものとみなされる部分に対応する寄与の効果を認めるのが相当である。そこで叙上の事情を総合考慮し申立人の寄与分を金730万円と定めることとする。

六  相続分の算定

1  当庁家庭裁判所調査官の調査した結果によると(1)~(3)の不動産の価格は昭和59年9月時点3、068万円、昭和60年12月時点3,308万円と認められる。なお考慮すべき要素として申立人は被相続人を扶養するため同不動産に同居し、火災保険料、修繕費、公租公課を全額負担しており(被相続人の持分に対応する費用だけでも460万円を下らない)、現在2分の1の持分を有し、居住継続の必要があり被相続人もこれを認容していたことから居住権が付着しているものとしてその価額を15%減額するのが相当である。

したがつて相続開始時2,608万円(昭和59年9月時点の評価額を下廻ることはないと判断する)、分割時2,812万円と措定するのが相当である。

(4)~(6)の定期預金については昭和60年12月末現在1口当り85,938円の利息がある(相手方勝巳の報告)からこれを加算すると分割時の金額は3,257,814円である。

(7)の株式の時価はそれぞれ下記のとおりであり(大阪証券取引所電話照会と毎日新聞株式相場記事)、総額にすると相続開始時8,014,000円、分割時10,875,000円である。

(円)

銘柄/時点

58.9.29

60.12.18

朝日麦酒

294

397

東洋紡績

209

279

鐘紡

226

386

コニチカ

120

244

住友金属工業

165

140

日本製鋼所

170

210

三菱製鋼

182

345

日立造船

151

123

川崎重工業

159

165

日商岩井

296

258

太洋海運

82

142

大映

2  相続開始時におけるみなし遺産の価額は(1)~(3):2,608万円、(4)~(6):300万円、(7):8,014,000円、四1~4:5,039,000円を合計して42,133,000円であり,寄与分730万円があるから民法903条、904条の2を同時適用して具体的相続分の比率を求めると(千円未満切捨)

42,133,000-7,300,000 = 34,833,000

a 34,833,000×(1/8)≒4,354,000

………良友、美佐子、正子、佐知子

b 34,833,000×(1/8)-2,532,000≒1,822,000

………吾郎

34,833,000×(1/8)-1,470,000≒2,884,000

………勝巳

c 34,833,000×(1/8)-1,036,000≒3,318,000

………富美江

d 34,833,000×(1/8)+7,300,000+4,354,000×2(正子・佐知子の相続分譲渡)+2,884,000(勝巳の相続分譲渡)≒23,246,000

………菊次郎

(a/2a+b+c+d) = 0.11738

………良友、美佐子

(b/2a+b+c+d) = 0.04912

………吾郎

(c/2a+b+c+d) = 0.08945

………富美江

(d/2a+b+c+d) = 0.62667

………菊次郎

となる。

3  分割時における遺産の価額は(1)~(3):2,812万円、(4)~(6):3、257,000円、(7):10,875,000円で総額42,252,000円である。これに前記相続分の比率を乗じて各人の現実の取得分額は

42,252,000×0.11738≒4,959,000

………良友、美佐子

42,252,000×0.04912≒2,075,000

………吾郎

42,252,000×0.08945≒3,779,000.

………富美江

42,252,000×0.62667≒26,478,000

………菊次郎

となる。

七  分割の方法

各人の取得分額、遺産の種類、性質、価額、決済方法の便宜等諸般の事情を総合考慮し次のとおり分割すべきである。

1  申立人菊次郎……(1)~(3)の不動産(価額2,812万円)

2  相手方良友 ……(7)のエ、オ、カ、キ、コ、シ、ス、ソの株式(価額3,844,000円)

3  相手方美佐子……(7)のア、イ、ウ、サの株式(価額496万円)

4  相手方富美江……(4)~(6)の定期預金(価額3,257,000円)

5  相手方吾郎 ……(7)のク、ケ、セの株式(価額2,071,000円)

6  各自の取得分額と取得財産との間の過不足の清算として申立人は相手方良友に1,115,000円、相手方富美江に522,000円、相手方吾郎に4,000円を支払わなければならない。

八  祭祀承継者の指定

申立人は両親と同居し、兄弟の中では最も密着した生活関係をもち被相続人から後継者として期待されており、現に仏壇などの祭具のある(3)家屋に居住し、祭祀を行つていること、相続人中には申立人が祭祀を主宰することに異論を唱える者がいないことからすれば被相続人の祭祀財産は申立人が承継するのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 篠原行雄)

別紙目録〈省略〉

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